長嶺さん、大丈夫ですか?
「そうだ」

「?」

「俺が辞めればいいんだ」

「は?」

「そうだ、そうしよう」

「え!?駄目ですよ!」


 長嶺さんはノイーズきっての出世頭。 きっと人事総動員で引き留めにかかる。


「ぼちぼち飽きてきてたんだ、営業。うん、そうしよう」

「えっ、えっ、待ってください!」

「俺が転職して東京残ればいい話じゃん。あーなんで思いつかなかったんだ。よし決定。解決解決」


 長嶺さんは晴れやかな顔でんー、と背伸びをした。


「そ、そんな簡単に、転職って、」

「大丈夫だよ。俺だよ?」


 ニッと向けられる笑顔は、無敵のイケメン。


「でも、でも……っ」

「俺と離れたくないんでしょ?」


 そんなことをイケメンに小首を傾げながら言われてしまえば、返す言葉が見つからなくなる。


「はい、この話終わり。それよりさ」


 長嶺さんは立ち上がって、私の手を引いた。


「クリスマスデートの続きしよう」

「え?」


 デートの続き……?


「うん。言ってたじゃん、〝あとでいっぱいしようね〟って」

「……!」


 顔が一気に熱くなる私に、長嶺さんはふにゃ、と可愛い笑顔を浮かべてみせる。


「ま、キスだけじゃ終わんないけどね」


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