長嶺さん、大丈夫ですか?




 
 ――二年後、春。


「初めまして。トレーナーの花樫です。よろしくお願いします」


 ノイーズホールディングス本社営業部営業一課三年目となった私は、新卒トレーナーを任されるまでに成長していた。


「たっ、田栗(たぐり)です!よろしくお願いいたします!」


 えらく緊張する彼は、この春からノイーズにやってきた新卒社員の田栗(たぐり)くん。
 若々しく、パリッとしたスーツに着られる姿はなんだかあどけなくて、かわいい。

 
「そんな緊張しなくて大丈夫ですよ。今からざっくり社内案内するだけなので。気になったことなんでも聞いてください」

「はい!」


 田栗くんはスチャッとペンとメモを取り出してしっかりと頷いた。
 よかった。真面目そうな子だ。

 それから私たちはロビーに降りて、一階から順に説明していく。田栗くんは私の話すことに興味津々で聞き入っている。

 懐かしいな。私もトレーナーにこんな風に会社の中を案内してもらったっけ。


 経営企画部のフロアに入った時、田栗くんがペンを落とした。


「あっ、す、すいません!」


 私はそのペンを拾ってあげながら、自分もシトミズの社長さんを前にペンを落としたことを思い出し、つい顔を綻ばせる。


「はい、どうぞ」


 緩んだ顔を戻せないまま、田栗くんにペンを差し出した。


「っ……、」


 すると田栗くんが、私の顔を見つめたまま動かない。



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