長嶺さん、大丈夫ですか?
 その掴む手の薬指に、私の左手薬指にはまるそれと同じものがはまっている。
 ハッと見上げると、よく見知った顔。


「光さん……!」


 ノイーズホールディングス経営企画部・新規事業推進室の室長で、私の夫、長嶺光31歳である。


「なに新卒にセクハラしようとしてんだ」

「セ……!?何言ってるんですか、熱がないか確かめようとしただけです!」

「へぇ?熱ねぇ……」


 光さんは田栗くんにニコッと笑いかけると、田栗くんに近付く。


「?あ、あの……?」


 動揺する田栗くんに構わず、光さんはキスでもするのかという距離まで近づく。


「ちょっ、ちょっと、光さん……!?」


 あまりにも近いのでさすがに止めに入ろうとすると、光さんはコツン、とおでことおでこをくっつけてみせた。


「!?」


 田栗くんが驚きのあまりメモとペンを落とす。


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