長嶺さん、大丈夫ですか?


「大丈夫? 花樫さん」

 駐車場まで戻ってすぐ、長嶺さんは心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「っ、それはこっちのセリフです! あんなこと言って大丈夫なんですか?」

「ああ、大丈夫。 近々あの社長、潰れるから」

 長嶺さんがとんでもないことをサクッと言った。

「え!?」
 
「前々からなんかきな臭ぇなと思ってたんだ。 社員たちもみんな真面目そうないい人たちだけど、どこか心閉ざしてる感があったし。 でも確信がなかった。 それでさっき製造の人にカマかけてみたら案の定だったわ。 セクハラ、パワハラ、モラハラのオンパレードで、表向きはきれいな古き良き会社だけど、中身は不正もやりたい放題のぐっちゃぐちゃ。 いま社員たちが暗に証拠集めしてるところで、上層部のこれまでのハラスメント全部メディアに提出しようとしてるらしい」

「そう……だったんですね……」


 そんなこと、データ上では全く見えなかった。
 目の前の契約に舞い上がっていた自分の未熟さをつくづく痛感する。


「で、そんな話聞いた後に戻ったらあのハゲ……」

 長嶺さんが舌打ちをした。

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