長嶺さん、大丈夫ですか?
 とうとう涙が溢れ出してしまった。

 また長嶺さんに情けないところを見られてしまっている、止めないと、と思うのに止まらない。

 止まって、仕事中なんだから。 いい大人の女がちょっと触られたくらいで泣くなんて、恥ずかしい。

 止まれ、止まれー……


「偉かったね」


 予想外の優しい言葉に思わず目を向けた。

 遠くを眺める長嶺さんのきれいな横顔が目に入った。


「…会社のために頑張ったんでしょ。 今日もほんとは来たくなかったよね。 気付けなくて、ほんとごめん」


 やっぱり声を出せない私は、首を横に振って俯くことしかできない。


「花樫さん」


 俯く私に、影が落ちる。

 私の視界に入るようにしてしゃがんだ長嶺さんの、射抜くような力強い目に捕えられた。

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