長嶺さん、大丈夫ですか?
「もしこれからまたこういうことがあったら言って。 そこにいなかったら呼んで。 すぐ助けにとんでいくから。 どんな手を使ってでも、絶対花樫さんのこと守るから」


 その時


「っ」
 

 心が揺れるってこういうことか、と思った。

 
「わかった?」
 
 
 念押しする長嶺さんの真剣な表情に、時が止まったような感覚に陥った。

 それでも心臓は大きく速く、怖くなるほどに高鳴っている。

 いたたまれなくなって、長嶺さんの視線から逃げるように目を逸らした。


「っ……わかりまし、た」


 バグだ。

 感情がバグを起こした。

 大嫌いな長嶺さん相手にこんな顔が熱くなるなんて。

 今日のことがショック過ぎておかしくなってしまったんだ。
 

「……そうだ、皐月姐さん呼ぼうか」


 顔を隠す私をまた泣きだしたと勘違いしたのか、長嶺さんは立ち上がって私に背を向けてスマホを取り出した。


「あ、トレーナーも部長に相談すれば女性に変えてもらえるかも」


 大丈夫です、と言おうとしていた私は、予期しない長嶺さんの言葉に思考停止する。


「男の俺とずっと一緒に仕事するの、さすがに辛いでしょ。 部長に聞いておくよ。 とりあえず今日はもう早帰りして休みなー」


 長嶺さんは困ったような笑顔でそう言うと、缶コーヒーを飲み干してスマホを耳にあてた。

 そしてそのまま私に背を向けて歩き出す。

 
< 35 / 284 >

この作品をシェア

pagetop