長嶺さん、大丈夫ですか?
「っ、辛くないです!」

 
 頭で考えるよりも早くそう口走っていた私は、咄嗟に長嶺さんのジャケットの裾をつかんでいた。
 
 驚いた長嶺さんと目があう。

 
「長嶺さんといるのは……辛くないです」

 
 私は、この上司が嫌いだ。

 嫌い、なのに。

 
「むしろ、いて欲しいです」

 
 どうして、こんな必死になって引き留めているのだろう。

 
「……ここにいてください」

 
 あんなにトレーナーを変えて欲しいと願っていたはずなのに。
 女の子をたぶらかす最低のクズ、女の敵であることには変わりないはずなのに。
 
 いったい私は、何を言ってるんだろう。


「……はい」


 驚きすぎたのか、なぜか敬語で頷いた長嶺さんはスマホを持つ手を下ろした。
 そのまま後ろ歩きで元に戻り、ポスッとベンチに座る。


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