長嶺さん、大丈夫ですか?
「「……」」


 そこで今動き出した船が、再び間延びした汽笛を鳴らした。

 私は長嶺さんのジャケットの裾を掴んだ手を離せないでいる。

 ベンチの肘置きを使って頬杖をつく長嶺さんの視線は、私と反対方向にあって、長嶺さんが今どんな顔をしているのかはわからない。

 お互い何も話さない、ひたすらに沈黙の時間。

 それなのに不思議と居心地がよかった。

 あんなに居心地が悪かったはずの長嶺さんの隣が、ひどく居心地がよかった。




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