長嶺さん、大丈夫ですか?
 築60年のボロアパートの狭いキッチンで、いかに洗剤を使わず食器を綺麗にできるか試行錯誤してるわたし・花樫理子は昔、社長令嬢だった。

 元々名家の娘だった亜由子と一代で財を成した父はどっかの政治家のパーティーだかなんだかで知り合い、亜由子の両親の猛反対(成り金は駄目だったらしい)を振り切って駆け落ち、燃えるような熱い恋愛を経てゴールインした。
 
 ほどなくして私が産まれた。 わたしの知る限り本当に仲のいい家族だった。
 母は、やり手で豪快かつ紳士な父を尊敬していたし、父も父で愛嬌たっぷりの母を心から可愛がっていたように思える。
 私はそんな両親からたくさん可愛い可愛いと言われながら育った。
 言えばなんでも買ってもらえたし、なにしても怒られなかったし、甘やかされた。
 私自身、恵まれた人間なんだということをわかっていたし、幸せだった。
 ただ漠然と、このままではダメな大人になるのでは、という不安を覚えたのは中学二年生の時。
 クラスの女の子に、理子ちゃんはワガママだから嫌いって陰口を叩かれた時だった。
 とってもショックだった。
 この頃、無愛想で可愛くないとも言われて、それもビックリだった。
 今にして思えば、自分本位で気を遣うことを知らなかった私は、確かにワガママで可愛くなかったのだと思う。
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