長嶺さん、大丈夫ですか?
 そして、私は両親がいなくても生きていける、そう思った大学一年生の冬のこと。
 会社を倒産した父が、蒸発した。
 何もできない母と、すっからかんの口座を残して。
 父は10年連れ添った愛人と、駆け落ちしたらしかった。

 父に依存していた母は泣くことしかできなかった。
 私が言わなければ水さえ口にしようとせず、死ぬことばかり考えていた。
 『私がしっかりしないと終わる』
 そう思った。
 街一番の豪邸も、高級家具や家電、服やカバンまで、すべて売り払って必要最低限の家に引っ越した。
 役所で貰える手当は全て貰い、母のできるパートを探し、なんとか大学は卒業して母を養うためにいいところに就職しなくてはと、必死だった。
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