長嶺さん、大丈夫ですか？

　片付けをしているとまた長嶺さんのスマートフォンが鳴る。　着信だ。

「はーい。　うん、いま会社。　終わってこれから出るところ……え？　会いたい？　ハハッ、それは今夜アユを襲っていいってこと？」

「お先失礼します！」

　長嶺さんの声をかき消すように大きめの声で挨拶して、営業部を後にした。

　そのまま廊下を突き進んでエレベーターで地上に降り、会社の外に出る。
　ビジネスマンが多く行き交う中を無性にイライラしながら他の人と同じ速度で歩く。

　あ〜〜〜もう、イライラする！
　会社で女の子からの電話をとるなよっ！
　やっぱりトレーナー替えて貰えばよかったかも！

　ため息を逃がして見上げた空はどんよりとしていて、今にも降り出しそうだ。
　今日の予報は確か晴れだったはず。　折り畳み傘は家に置いてきてしまった。　急がないと。

　ビジネス街を抜けて駅前の繁華街にやってきた。

　この繁華街の途中に地下鉄の入り口がある。

　いつもと同じようにその入り口目指して歩きながら、ぼんやりと思うのはやかましい上司のこと。