長嶺さん、大丈夫ですか?
「ミィ~……」


 苛立ちを隠し切れない私の耳に、随分可愛らしい声が届いた。


「ミィ、ミィ」

「……?」


 気になって足を止め、どこから聞こえて来てるのか周囲を探す。


「……あ」


 それは、店と店の間の狭く暗い路地。 子猫が一生懸命に鳴いていた。
 子猫と目があって、私は動きを止める。


「ミィ~、ミィ~」


 子猫は鳴きながらこちらにやってきて、足元にすり寄る。

 ……かわいい。

 野良猫……?にしては綺麗だし人慣れしてるし……あ、首輪してる。

 首輪のプレートには小さく、【素敵な飼い主さんに拾われますように】と拙い文字で書かれていた。

「……は?」

 意味がわからない。

 これ書いた人が素敵な飼い主さんになればよかったじゃないか。

 ……無理か。 こんな酷いことする人。
 
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