長嶺さん、大丈夫ですか?
 そこにしゃがんでなにかを一生懸命訴える子猫と見つめ合う。
 こんなところに置き去りにされて、きっと心細いだろう、怖いだろう。
 道行く人は子猫に気付きはしても、忙しいのか見て見ぬふりしてそのまま素通りしていく。
 
 見上げると、電柱にとまったカラスが子猫をじっと見下ろしていた。 このままではあのカラスに襲われてしまうかもしれない。
 拾ってあげたいけど……うちは亜由子の世話だけで手いっぱいだし、その亜由子は猫アレルギーだし……どうしよう……。


「花樫さん?」

「!」

「どうしたの」

「長嶺さん……」


 長嶺さんは私の後ろから顔を覗き込ませて猫を見つけた。

 
「あら可愛い」

「ミィ~」

「捨てられちゃったみたいです」

「あー……」


 子猫は今度は長嶺さんの足元にすり寄った。


「かわいそうになぁ」


 長嶺さんが私の隣にしゃがんだときだった。

 ポツ、ポツ。

 地面に一粒、二粒と、シミができた。

 あ。 雨……

 と思った次の瞬間。

 
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