長嶺さん、大丈夫ですか?
 ドキンドキンと心臓が少し早くなるのを感じながら小さな玄関で靴を脱いだ。
 とりあえず女性ものの靴は見当たらなくてひと安心する。

 
「狭くてごめんねー」

「あ、いえ」


 長嶺さんが出してくれたスリッパをはいて、猫と一緒に恐る恐る中に入らせてもらう。
 
 1Kのシンプルな部屋は、お世辞にも広いとは言えないけど空間に余裕がある。 というか物が少ない。
 カフェで使われるような間接照明や、オシャレな木製テーブル。
 二つだけ置かれた観葉植物のグリーンが、アースカラーを基調とした部屋にいいアクセントになっている。

 ……なんか

 
「意外?」

 
 後ろから思っていたことを言われて体がビクッと跳ねた。


「あ……もっと豪華なところに住んでるかと」

「ハハッ、よく言われる」


 長嶺さんは屈託なく笑いながら猫とハンガーを交換した。

 猫は長嶺さんから逃れて部屋を探索し始める。

 
「高級マンションの最上階に住んでそうとか。 まぁきっかけがあればそういうとこに住んでたかもわかんないけど、この部屋学生んときから住んでて愛着わいちゃってんだよね。 近所の人いい人だし、会社近いし」


 意外だったけど、理由を聞いて納得した。
 さっき長嶺さんが「猫持って帰っていいです?」って大家さんに電話して《今度見せてね〜》と言われていたことを思い出す。


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