長嶺さん、大丈夫ですか?
長嶺さんがシートベルトを締めて、ハンドルを握った。
こうして改めて見ると、長嶺さんに女の子が寄ってくる理由は分からないでもない。
色素の薄い白い肌にのる少し厚みのある柔らかそうな唇と、筋の通ったきれいな鼻はやっぱりイケメンだし、ジャケットを脱いだワイシャツ越しに分かる逞しい体のラインと、笑うと目尻が下がってふにゃりと脱力する可愛さのギャップがいい。
というのは、女子トイレでたまたま聞こえた雑談の内容。
確かに横顔がきれいなんだよな、と思っていると、私の視線に気づいた長嶺さんがフ、と口角をあげて目を細めた。
その微笑みは、何も知らない女の子だったらコロッと落ちてしまいそうなほどのそれ。
「……なに? そんな可愛い顔して。 もしかして誘ってる?」
はい、どクズ。
「いいえ」
こんな人が私のトレーナーで、毎日隣にいる。
同期の他部署の女の子に長嶺さんがトレーナーなんて羨ましいと言われたりするけれど、トレードできるのならぜひお願いしたい。
「なんだ、残念」
睨みつける私を長嶺さんはさらりとかわして緩やかにアクセルを踏み、私も顎に力を入れたまま前方を見つめた。
私は、この人が嫌いだ。
はやく一人前になって、この居心地の悪い上司の隣から離れたい。
そうでないと私の眉間の皺は日に日に増して、いつかほんとにそういう顔になってしまいそうだ。