長嶺さん、大丈夫ですか?
 ダボダボのズボンをまくって脱衣所を出る。
 リビングへのドアに手をかけた時、声がした。


「……ふ。 なんだよチャコー」


 チャコ? もう名前つけたのかな。

 ってか、長嶺さん……


「可愛いなお前。 うりうり」


 ……溺愛してる?
 

 ドアノブに手をかけて、リビングを覗いてみる。
 あぐらをかいて猫とたわむれる長嶺さんと目があった。

「……お風呂、ありがとうございました」

 妙に恥ずかしくて目を逸らす私に対し、長嶺さんは数秒の沈黙の後、ニコッといつものスマイルを浮かべた。

「はーい。 ちゃんとお礼言えて偉いねー」

「……」


 またそれですか。 お子様扱い。

 無意識に顎に力が入って、唇が尖ろうとする。

 この人の中で、私に対してそんな気起こそうなんてつもりはまるでないんだ。
 本当に私は圏外なんだ。

 
「俺も入ってくるわ。 そんでチャコお願い」

「あ、はい……てかもう名前決めたんですね」

「うん。 ないと困るし。 理子ちゃんが拾った茶トラだから、チャコ。 可愛いでしょ」

 
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