長嶺さん、大丈夫ですか?
 〝理子ちゃん〟?


「なーチャコ~。 お前も気に入ってるよなー。 ちゃんと返事できるもんなー。 チャーコ」

「ミャー」

 私の腕の中でいい子に返事をするチャコを、長嶺さんは目を細めて撫でた。
 長嶺さんの声音も、表情も、すべてが優しく暖かくて、会社で見るそれとはまったく違っていた。
 見たことのない長嶺さんの仕草に、また心臓が忙しなく動く。

「花樫さん」

 本来の呼び方で呼ばれてハッと我に返り、リビングを出ようとドアの方にいる長嶺さんを見上げた。
 長嶺さんが、ニヤ、と意地悪な笑顔をのせる。

「覗かないでね?」

「!?のっ、覗きません!」

 私のツッコミに満足したらしい長嶺さんはハハッと笑ってリビングのドアを閉めた。
 一人と一匹になって、改めて子猫を見つめてみる。

「……チャコ?」

「ミャァ」

 なるほど、嬉しそうにお返事してくる。 チャコという名前を相当気に入ったみたいだ。

 チャコって……
 自分が名前の由来だって聞いちゃうと、なんだかくすぐったい。
 長嶺さんが名前を呼ぶたびに意識してしまいそうだ。
 
 チャコは遊びたい気分なのかすぐ手にじゃれつこうとするので、帰り際に買ってきたネズミのおもちゃを出してみる。
 チャコは興奮気味におもちゃにくらいついて遊びはじめた。
 好奇心旺盛なチャコの真ん丸な目を眺めながら、先ほどの長嶺さんの溺愛っぷりを思い出す。
 
 ……長嶺さんは、添い寝ガールズたちに対してもあんな風に優しい声音で話したりするのだろうか。
 このキレイなワンルームに、添い寝ガールズたちはよく来るのだろうか。
 そう言えば、アユはどうなったのだろうか。

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