長嶺さん、大丈夫ですか?
「かっ、帰ります!!」


 私はフルパワーで長嶺さんを押しのける。

 長嶺さんは思いのほか力が緩くて、簡単に私に押された。


「そう?」


 顔を熱くさせる私に対し長嶺さんは、何事もなかったかのように余裕な笑みを浮かべている。


「今日はありがとね」


 なんであんなことをした直後にこんな普通でいられるのか。 人間性を疑う。


「っ、どういたしまして!」

 私は怒りに息を荒くしながら急いで脱衣所に行って乾燥機から服を取り出して着る。
 脱衣所から出ると、長嶺さんがやっぱり何事もなかったかのような顔でそこにいる。

「送るよー」

「いいえ! 駅すぐですしまだそんな遅くないですしチャコさんいますし!」

 私は長嶺さんの横をすり抜けて自分の荷物を抱え込んだ。

「じゃあまた会社で」

「し、失礼します!!」


 私は勢いよく頭を下げて長嶺さん家から飛び出した。

 駆け足で階段を降りていく。 心臓はフルスロットルで、顔は沸騰しそうに熱い。


 なにこれ……っ

 なにこれ、なにこれ……!
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