長嶺さん、大丈夫ですか?
上司の事情。
ベランダからプリプリ怒りながら去っていく花樫理子の背中を眺めていると、ポケットのスマホが振動した。
……またアユから着信。
久しぶりに吸うたばこの煙を肺に取り込んでから、通話ボタンを押す。
「……はーい」
《ねーぇーヒカルぅ~! どうして来ないのぉーもぉ~!》
あらら、すげぇ酔ってる。
さては太一逃げたな。
あいつかまちょ嫌いだからなぁ。
「何度も言ってるじゃん。猫拾っちゃったから無理なんだって」
《だからあたしがそっち行くってぇ!そんで朝までヤリ倒そう?》
部屋の中をウロウロしておもちゃで遊び始めるチャコを眺めながら、もう一度煙草を体に取り込んで、とっぷり暗くなった夜空に吐き出す。
「あはは。それは楽しそうだね。でもダメー」
《もぉ~!なんでよぉ~!そんなに家来られるのが嫌なのぉ?》
修羅場になるからって言うのはもちろん大きな理由だった。
でも、それ以上に自分の部屋っていうパーソナルスペースに誰かを入れることに抵抗がある。
その日初めて会った女の子と真っ裸になってあられもない姿をさらすのには抵抗ないのに、変なところ潔癖だなって自分でも思う。
だからこそ、職場の後輩を家に招き入れてしまうなんて。
……そうだ、今日はそこからもうおかしかった。