長嶺さん、大丈夫ですか?
「麗華さんのような素敵な女性に食事に誘ってもらえるなんて、光栄です」

 
 麗華さんの顔が分かりやすくパァ、と明るくなった。
 

「じゃぁ……」

「でもすみません」

「え?」

「行きたいのはやまやまなんですが……交際中の彼女が嫉妬しちゃうので、遠慮させていただきます」


 え?
 

「…………え?」

 
 ゴトリと麗華さんのスマホが落ちた。
 長嶺さんはそれを拾うと麗華さんの手にそれを置き、また例のスマイルを添える。


「ではまた」


 呆然とする麗華さんを残し、私たちは駐車場に向かって、停めておいた社用車に乗り込む。


「ふー、もう一社だけ行っときますかね」


 シートベルトをカチャンと閉めた長嶺さんは車のエンジンをかけた。


「花樫さーんシートベルトし……」

「長嶺さんって正真正銘のクズだったんですね」

「ん?」


 そのおとぼけ顔がまた鼻について、私は長嶺さんをギッと睨みつける。


「彼女、いたんじゃないですか!」

< 93 / 284 >

この作品をシェア

pagetop