長嶺さん、大丈夫ですか?
 長嶺さんのお宅にお邪魔してから、二週間が経っていた。
 私と長嶺さんは相変わらずこんな調子で。 別に何もやましいことがない、ただの上司と部下。
 それはそうだ。 長嶺さんからしたら、私がバカみたいに過剰反応するのを面白がってただけだろうし。
 こんなに通常運転だと、改めて自分が長嶺さんにとって圏外なんだと思い知らされる。

 エレベーターの中ではいつも女の子と連絡を取ってるはずの長嶺さんが、今日はタブレットを見ている。

「? まだなにか仕事ですか?」

「シトミズ社長が気にしてた商品。ちょっと調べて明日近く行くついでに教えてあげようかなって」

「え…帰り際にちょこっと言ってたやつですか?うちの儲けにならないですよね。そこまでします?」

 長嶺さんは困ったような笑顔で、ちょっと言い辛そうにする。

「んー、俺ってこんなでしょ。どうしたって軽く見られんだよね。まあ実際軽いんだけど。社長さんからしたら『こいつなら任せられる』ってハードルが人より高いと思うんだ。だからこういう細かいこと積み重ねてって信頼を勝ち取っていくしかないんだよね」

 クズのくせに。
 コツコツ努力を積み重ねるタイプ。

「……私も手伝います。他社でも類似商品出してましたよね」

 長嶺さんは一瞬驚いた様子で固まると、すぐにヘラッと笑ってみせる。

「ありがとう。花樫さんって優しいよね」

「!? べ、別に優しくなんてないです……!」

「ハハッ!ツンデレの定型文だ」

「っ……!」

 そこでエレベーターが一階に到着した。

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