血の味のする恋を知る
そっと手を伸ばして母親に触れる。がくがくと震える体は何を恐れているのだろう。隣にいる妹も気になるけれどまずは母親が優先だ。
血の気の失せた真っ青な頬を撫でてみる。まだ幼かったあの頃に思い描いていたような温もりはなく、想像よりも気持ちの良いものではないのだなとちょっとがっかりした。
「きらい、きらい、だぁいっきらい。わたしにたくさん酷いことをしたんだもん。じゃあそれが返ってきてもおかしくないよね?」
あの父親だったものみたいに。
にっこりと微笑み小首を傾げて囁く。
「ひっ、い、…ぁっ、ぁぁ……、たっ、たすけ、!!」
「ばいばい」
ごろり、と質量のあるものが床に転がり、びしゃりと噴き出た血が新しい赤を飛び散らせた。ぐらりと命を失った体が音を立てて倒れる。
「きゃあぁあぁぁぁっ、おっ、お母さまっ、いやぁぁ、っ………!!」
その体に縋り付く妹を不思議な気分で見つめる。そこにあるのは最早話すこともないただの死体、物体でしかない。それはもう意味のない役立たずでしかなく、捨て置け、そうじゃないと今度はお前が魔物の餌になるぞとわたしは部隊でそう教えられた。
それなのに妹は死体になった母親に声をかけて起きてと言い、自分を助けてと叫んでいる。家族の情がそうさせるのだろうか。ならわたしにわからないのも当然だ。