血の味のする恋を知る
腹の底からおかしくてたまらない。今日は面白くておかしいことばかりだ。こんなに笑ったこと、生きてる中できっと初めてだ。
「……〜〜っ、化け物っっっ!!!」
その言葉に、狂ったような笑い声がぴたりと止まる。
しん、と静まった空気の中で誰かが息を呑む音がいやに大きく聞こえた。
聞き慣れた、耳に馴染んだその言葉は、力のない人間がいつもわたしたちに投げつけるもの。今更それに傷ついたりはしない。
でも、でもね、ずっと、一度でもいいから言いたかった。
「………………わたしたちを、化け物にしたのはあなたたちでしょ」
化け物だと言われ続け、化け物であると育てられた。化け物だから自分達のために死ねと、化け物だから虐げていいと、そうしてきたのは他ならぬあなた達だ。
そしてわたしから見たら、そんなあなた達の方が化け物だ。
自分達は弱いからという免罪符を掲げて、力あるものを言葉で雁字搦めにして自らが正義だと言わんばかりにこちらを罵倒する。弱者であることを盾にして力ある者を虐げる姿はなんて醜いのか。
ふつふつと、明確な殺意が身体に沁みていく。
せっかく優しく終わらせてあげようと思っていたのにね。それを台無しにしたのはあなた自身なのだから、恨むなら自分を恨んでね。
向けた指先から何百もの不可視の風の刃が繰り出し、妹の身体を切り刻んでいく。絶叫し、一瞬で血で赤く染まった体が音を立てて倒れた。まぁ派手に血は飛んだけれどどの傷もそこまで深くはないのでまだ意識はあるだろう。呻き声も聞こえるし。
じわじわと広がる血の円を見下ろしながら妹の顔を覗き込む。何が起こったのかわからないのだろう、混乱と、痛みと恐怖に歪む顔を見てうっそりと笑みが浮かんだ。
「そのままじわじわ死ぬ恐怖を味わえ」