血の味のする恋を知る



狂ったように笑い続けながら作業を行い、どれだけの時間が経ったのかはわからないけれど気づいたら目の前には肉塊が飛び散っていてわたし自身も返り血で赤黒く染まっていた。


愉快で楽しかった気持ちがすこんと抜け落ちる。…………今更になって自分の格好が気になってきた。血を浴びるのは慣れているけれどさすがに頭から爪先までこんなにも汚れたことはない。髪を絞ればぼたぼたと音を立てて血が滴った。


今なら文句を言う人間も全員いないなとぼんやりとお風呂場の場所を思い浮かべるも曖昧だ。屋敷の中は自由に動けなかったし使ったこともないので仕方ないといえばそうなのだけれど。


あ……目の前のことに夢中になり過ぎてしまったけれどさっきの人?はどうしたのだろうとゆっくりと見渡せばその麗人はまだそこにいた。


さっきはわたしのことなんて歯牙にもかけていなかっただろうに、なぜか今はその目はまっすぐにわたしを貫いていた。その瞳の強さと美しさに心が震える。


瞳だけじゃない。何度見ても、その全てが息を呑むほどに美しい。対するわたしのなんて見窄らしいことか。比べることすら烏滸がましくて逆に笑えてきてしまう。


存在して、相対していることさえ罪悪感を抱いてしまうほどの圧倒的な美しさはこんなにも心を屈服させてしまうのだなと思った。でも、不思議と全く嫌じゃない。


それともそう思うのは相手が魔人だからなのだろうか。そう……明らかに人ではないものであり、さっきも父親の心臓を食べていたのでこれは確実だろう。マナは心臓に貯まりやすいのだ。少し前にあった魔人の目撃情報にも一致する。




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