血の味のする恋を知る
こんなにも目立つ人が今までどうやって生き延びてきたのだろう。そういえばわたしは部隊に連絡を入れるべきなのだろうか。そんなつもりは微塵もないが。
だってわたしはこの出会いに感謝している。この人が今夜ここに来て、このきっかけがなければわたしは今でも何も感じず、何も考えず、ただ言われるがままこの国の人間に都合のいい人形として無為な人生を歩んでいくだけだった。
はらはらと、自分でも自覚のないままに涙がこぼれ落ちていく。痛みからでも、苦痛からでもない、純粋なまでの正の感情からくる涙なんてきっと生まれて初めてだ。
自然と頬が緩んで顔が笑みを作る。胸が感動や感謝、歓喜や安堵でいっぱいで言葉も出てこない。この激しくて強烈なまでの感情を人はなんて表すのだろう。
ぼやける視界の中、月明かりで照らされた美しい人が柔らかく微笑んだ。わたしに向けられたそれにどくりと心臓が音を立てる。
世界が、一瞬にして鮮やかに色づいて輝いたように見えた。
………あぁ、そうか。誰がなんと言おうと、否定しようとも、きっと、今わたしが感じているこれは恋だ。
心から屈服し、頭を垂れ、わたしの全てを捧げてもいいと思えるような絶対的なまでの崇拝を掲げた恋。誰にもこの想いは否定させない。