血の味のする恋を知る



理不尽な現状に対する怒りも嘆きも、放り込まれた討伐部隊で訓練という名の圧倒的な力の蹂躙に合えば瞬く間に消えていった。それよりも日々を生き残ることに必死になった。


そうやって部隊に入れられた者は肉体的にも精神的にも追い詰められて心が壊されていく人がほとんどだ。まぁ自分は選ばれた人間だという選民思考を持ったまま成功する人もいるみたいだけど。


そうして何も考えず、何も思わない、ただ命令の通りに敵を倒す討伐部隊が作られていく。わたしもその一人だ。


屋敷の隅、日当たりの悪い角部屋に身体をすり込ませて魔法で施錠し、倒れ込むように粗末なベッドに横になる。あぁ、怪我の治療も薬も飲まないと…でももう、疲れ切って動くことも億劫だ。


せめて他の人達のように寮に入れてくれればいいものをその分のお金さえ勿体ないからとわざわざこの屋敷から通わないといけないというのがまず無駄だと思う。


表向きは部隊に所属している娘を労るためにとか言っているみたいだけど実際はお金が勿体ないとかストレス解消のサンドバッグがいなくなると困るとかそういうところなのだろう。そこにわたしの意思はない。


顔をしかめつつ体を仰向けに変える。換気もしていないし、ここを掃除する人なんていないから埃と黴の匂いがする。


少しだけだと思っていたが、目を閉じた瞬間に眠っていたらしく、次に目を開けた時には周りは暗くなっていた。唯一ある小さな窓からは細い月明かりがさしている。


眠っている間にマナも回復したのか身体もだいぶ楽になっていた。それを便利だと思う反面、人間離れした回復の速さに乾いた笑いが漏れる。これじゃ化け物と呼ばれてもおかしくないと、嫌でも実感する。


毎日毎日毎日毎日、同じ日々の繰り返し。痛みと苦痛に満ちた真っ暗闇な生活。ここから抜け出したいと思う気力さえもう尽きた。変えられるなんて思うほどの希望も持てない。


わたし自身もきっと変わらない。変えられない。


あぁ、こんな世界………てしまえばいいのに。



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