離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「会長はもう少し長生しなきゃいけないな。母さん頑固だから」

「玲司はおふたりにどうなってほしいの?」

 複雑な家庭環境だったが、どちらも彼の両親だ。彼がなにを望んでいるのか気になった。

「どうとでも」

 エンジンをかけながらさらっと言う。

「ふたりのことだから、俺からはなにも。ただ後悔だけはしないでほしい」

「そうだね」

 彼らしい言葉だが、どんな結果になっても彼はありのまま受け入れるだろう。それもまた彼の強さだ

「それに俺は、琴葉との楽しい将来を考えることに必死だからな」

 そう言ったかと思うと、さっと私の唇を奪い車をゆっくりと発車させた。

「少し、遠回りして帰ろう。俺の足が治ったらドライブに行きたかったんだろう」

「いいの! うれしい」

「もちろんだ。これから四年間できなかったことをやりつくすんだから、忙しいぞ」

 運転する彼の横顔を見ながら、私の止まっていた時間が動き出したのだとようやく実感できた。




 そして週が明けた月曜日。私はもうひとりちゃんと自分の結婚について伝えておきたい相手を出社前に呼び出した。

 朝の冷えきった街を、寒そうに身をかがめながら歩く人たち。その中を私はいつもよりもほんの少し早い時間に歩いていた。

 目的地は会社近くのコーヒーショップ。私は毎日比較的早い時間に出社するので、そこまで苦ではないが、相手のほうは「なぜこんな朝早くに?」と迷惑に思っているかもしれない。

 間もなく店の前に到着するということろで、向こう側から歩いてきている人に気がつく。

「君塚!」

 声をかけると、寒そうに縮こまっていた体を伸ばし彼がこちらを見た。

「ごめんね、朝早くに」

 白い息を吐きながら謝ると、彼は眠そうにあくびする。

「ほんまやで、なんでこんな早朝に呼び出されなあかんねん」

 不機嫌を隠さない彼に、逆にホッとした。

「ごめん。どうしても話しておきたいことがあって。コーヒー奢るから許して」

「しゃーないな。一番デカいサイズな」

「了解!」

 彼には先に座ってもらって、私はカウンターで注文をすませると商品を受け取ってから君塚の待つ席に向かう。

「はい、これ」

 私から受け取ったコーヒーを飲むと「はぁ、生き返るわぁ」と大袈裟に呟いた。おそらくなにもなかったかのようにふるまってくれているのは、彼のやさしさだ。
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