離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 どうしてこんなところに立っているんだろうと首をかしげる。彼が私たちに気がついてこちらに歩いてくる。

「おはようございます」

「あぁ、おはよう」

 玲司が短く挨拶を返した。

「俺先に行っとくで、失礼します」

 君塚が頭を下げ、玲司の横をすり抜けた。おそらくまだ気持ちの整理がしきれていないんだろう。

 ふたりで君塚の背中を見送る。

「その様子だと話は無事に終わったみたいだな」

「もしかして、心配してここで待っていたの?」

 彼には君塚と会うことは告げていた。

「別に。ちょっと外の空気が吸いたくなっただけだ」

「冷たい風がビュービュー吹いてますけど、本当に?」

 彼はため息をつきながら髪をかき上げた。

「琴葉の言う通り、心配だったんだよ。君塚とは色々あっただろ」

 たしかに強引に迫られたのを、彼も目撃している。それでここで待っていてくれたのだろう。

「ありがとう。無事私の中でけじめをつけました。君塚も驚いていましたけど、納得してくれたよ」

「そうか、それならよかった。とりあえず車に乗って」

 彼に言われるまま、助手席に座る。

「でも玲司って今日は北山グループの会議があるって言ってなかった?」

 ライエッセには出社しないのに、わざわざここまで来たみたいだ。

「そうだが、会議までまだ時間あがる。だから心配しなくていい」

「そこまでして……玲司ってばちょっと過保護すぎない?」

「そんな事ないだろう。夫が妻を心配するのは当然の権利だ」

 たしかにそうかもしれないけれど……。

「とりあえず、寒いから車に乗って」

「うん」

 彼に言われるままに車に乗り込んだ。

「でもよかったな。さっきの様子を見たところ無事大事な同期を失わなくてすんで」

「うん。ちゃんと話せばわかってくれる人だから」

 私がシートベルトを締めると、玲司が車をゆっくりと発車させた。歩いたほうが早いのはわかっていたけれど、せっかく彼と一緒にいられるんだからと彼の言葉に甘える。

「私やっぱり運転してるときの玲司、好きだな」

「なんだ、急に」

「ううん、なんでもない」

 そんなやり取りをしているうちに、会社に到着した。駐車場に車が止まる。

「じゃあ、行ってくるね」

「待て、俺も行く」

「え、でも出社の予定なかったんじゃない?」

「別にいいだろ、顔だすくらい。社員の士気も上がるだろうし」
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