離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 四年前にもらいたかった言葉を、なんで今になって彼から聞かされているのだろうか。

 過去の思いに引きずられそうになって、慌てて自分に言い聞かせる。

 彼は元夫ではなく、新しい私の上司。ただの上司、これは仕事の話よ。

「かしこまりました、これからよろしくお願いします」

「こちらこそ君が助けてくれるとありがたい。俺のことを一番理解して隣にいても違和感がないのは君だろう。あわよくばもう俺のそばから離れてほしくないな」

 特別な意味はないはずなのに、なんだか妙にひっかかる言い方だ。いや、私が意識しすぎてそう捉えているからかもしれない。

 彼の言う通りこの会社で彼を一番理解できているのは私だ。もちろん仕事の手腕もよく知っている。

 だからこそ中野社長が彼を選んだのも理解できる。

 これが会社にとってはベストな選択。たとえそれが、私にとっては居心地の悪い相手だとしてもだ。

 だが最後に、釘をさしておかなくてはいけない。

「念のためにもう一度言っておきますが、あくまで私と北山さんは今日が初対面ですので。そのこと忘れないでくださいね」

 あまりに何度も言いすぎたせいか、玲司は呆れた顔をしている。

「肝に銘じておくつもりだが――」

 彼が言葉を区切って、私のほうを見て笑った。

「うっかり口が滑ったら悪いな。先に謝っておく、琴葉」

 彼がわざと私の名前を口にしたのを見て、怒りが込み上げてきた。

 私がこんなにあれこれ悩んでいるのに、どこかおもしろがっているように見えたからだ。

「そんな人じゃなかったはずですけど」

「君の知っている俺が、どんな奴なのかぜひ話を聞きたいね」

 言い返したいけれど、きっと口では彼にはかなわない。

 それがそれがわかっているから、私はむっとした顔で彼を睨むしかできない。

「そんなに怒るな、これから仲良くやっていかなくちゃいけないんだから」

 それならそっちが態度をあらためてほしい。そう思うけれど彼は上司なのだ。なんでも意見できる相手ではない。

「では、私は失礼します」

 部屋から出ていこうとした私を、彼が引き留めた。

「待って。大事なことを忘れていた。君の連絡先を教えて」

 彼はあくまで上司として聞いているのだから、これから補佐として働くのだから連絡先を伝えておくのは当たり前だ。

 理解はしているけれど、心が抵抗している。
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