離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
エピローグ
エピローグ
それから一年と少したった翌年の三月。
都内のホテルの一番大きなバンケットルームには、ライエッセの社員や取引関係の人々が一堂に会していた。
今日私たちの会社【ライエッセ株式会社】は【ライエッセ北山株式会社】に社名変更して、正式に北山グループの傘下に入ることになっていた。
よって会場には北山グループの偉い方もたくさんやってきており、社員たちは緊張しながら準備のために走り回っていた。
私も慣れない少し高めのヒールで、会がつつがなく進行できるように動き回っている。
自分たちが大切にしていた会社が、ここまで立派になったことを感慨深く思う。
「琴葉、ちょっと休憩しないと最後までもたないよ」
すっと目の前にお茶の入ったグラスが差し出された。顔を上げるとそこには春香と君塚がいた。
「ありがとう、ちょうど喉乾いてたの」
ありがたくグラスを受け取り、乾いた喉を潤した。
細かいチェックが終わり、あとは会の開催を待つだけだ。受付もスムーズにいっていて問題がないようなので、同期三人で少しだけ話をすることにした。
「なんだか、感慨深いね。私たちの会社がこんなに大きくなるなんて」
春香の言葉に私はうなずく。
「俺は、いつかはこうなるとは思とったで。ただ予想よりもかなり早かったけどな。北山社長のおかげやな」
君塚の視線の先には、取引先の人と談笑する玲司の姿があった。フォーマルな装いの彼はいつにもましてカッコいい。
「旦那にみとれるの、やめてもらえない」
「そや、そや、幸せそうな顔しおって」
ふたりにからかわれて、自分が無意識に玲司を目で追っていたことに気がついて恥ずかしくなる。
「そんな別にみとれてなんかないし」
強がって見せる私をふたりは笑っていた。
「でも本当に北山社長はすごいな。俺が人を褒めるってよっぽどのことやから、琴葉は胸張ってもええで」
「なんでいつもそんなに偉そうなの?」
君塚に春香が突っ込みを入れる。
色々あったけれど、私がつらかった四年間を支えてくれたのはこのふたりとライエッセ、それと中野社長だ。
「そう言えば、中野社長今日来るって言ってたけど見かけた?」
「いいや。遅れとるんちゃうか?」
会社を離れて一年と九カ月が経つのに、私たちはまだ彼を〝社長〟と呼んでいた。今日の会社の晴れ舞台に、創始者である中野社長も招待したのだ。
みんな彼に会えるのを楽しみに待っていた。しかし結局彼に会うことなく会がはじまってしまう。
司会者から紹介された玲司が、壇上に向かう。
「皆様本日はお忙しいなか、私どもの会社、新生ライエッセのためにお集まりいただきありがとうございます」
スラスラとよどみなく会場すべての人に話しかけているかのような玲司の言葉にみんな惹きつけられている。
「取引先の皆様のおかげで、大きく成長することができ大変感謝しております。そして会社が生まれ変わるこのタイミングで、社長も交代させていただければと思います。新しい社長を紹介します」
これには取引先よりも、社員たちがざわついた。
「琴葉、お前知っとったんか?」