離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
第一章 再会
第一章 再会
〝ピッ〟っという解錠の電子音が聞こえ、扉をぐっと押す。
「おはようございます」
声をかけたが、フロアにはまだ誰もいない。今日も一番のり、なんとなく気分がいいと思うのは少し幼いだろうか。
私、鳴滝琴葉が勤めるここライエッセ株式会社は、
従業員二百人弱のクラウドサービスやWEBサービスを提供する会社だ。
創業して六年目、これからもっと業務を拡大していくつもりで従業員一丸となって頑張っている。
代表である中野社長の人柄か、若い社員が多いからか、
理由は複数あるだろうけれど、みんな忌憚ない意見を出し、活気にあふれる職場だ。
私は四年前にこの職場に中途採用された。
フリーアドレス制なので、一番のりの私はお気に入りの席に荷物を置きノートパソコンを開いたあと、
給湯室から洗剤の入ったスプレーボトルと台拭きを持って、フロアのテーブルを拭きはじめた。
ふとまだ電源の入ってないパソコンの真っ暗な画面に映る自分の姿が目に入る。
前髪が別れてしまっていのを直しながら、他におかしなところがないか確認する。
身長一五八センチ。肩につくくらいの髪は、先週行った美容院でおすすめされてモカブラウンに染めた。
華やかな印象になってとっても気に入っているし、周囲からの評判も上々だ。
今、仕事がとっても楽しい。
それを言い訳にするわけではないが、そうおしゃれに興味があるわけでもなく洋服はいつも行く同じ店で馴染みのスタッフに相談に乗ってもらうようにしている。
アクセサリーも最低限、顔周りが華やかになるピアスをつけることはあるものの他のものはめったにつけない。
完全に掃除をする手が止まってしまっていた。
早くしないと、みんなが来るまでにやっておきたい作業がある。
電車の中で組み立てた一日のスケジュールをもう一度思い出して掃除を再開した。
掃除は委託している業者さんがやってくれているので、必要ないと言えばそうなのだけれど、
仕事をする前に身の回りを整えると、仕事のモチベーションが変わってくる。
だから朝は少し早めに出社して掃除をし、そのあと優雅にコーヒーを飲みながら一日の予定を確認する――のが理想なのだが、なかなかそうはいかない。
「あかーん。やばいやばい。やってもーた!」
静かで心地のよい朝のオフィスの雰囲気が一瞬にして壊された。
入口からすごい勢いで、叫びながらこちらに向かってきているのは、ほぼ同期の君塚京太郎だ。