離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
朝から何事よ。
基本的にいつも騒がしく、それに加えて東京に出てきて何年も経っているのに抜けない大阪弁のせいで、フロアのどこにいてもすぐにわかる。
「なぁ、鳴滝。手伝って、一生のお願いや」
「あなたの一生、何度あるのよ」
呆れて言い返すと、私が手伝うと言っていないのにすでに資料を手に説明をはじめようとしている。なんてせっかちなんだろう。
「これなんやけど、朝いちの打ち合わせに間に合わん。鳴滝様なら、こんなんちょちょいのちょいやろ」
「調子のいいこと言わないで、私にだって仕事があるんだからね」
そうはいいつつ、資料の確認をする。
「今朝は歯磨きしてて、思いついたんや。資料の探すの手伝ってーや」
たしかにこの手の作業は、いつも書類の管理をしている私がやった方が早い。
それにここは新規の顧客で君塚がずっと頑張ってアプローチしてきたところだ。
「わかった。二十分ちょうだい」
「よっしゃ~! やっぱ鳴滝だよな。ほな、頼んだ!」
彼は言い残すと、さっさとフロアを出ていこうとする。
「ねぇ、どこいくの?」
「俺飯まだやから、コンビニ行ってくる」
手をひらひらさせながら、嵐のような男はフロアを出ていった。
「人に押しつけておいて、もう」
私は頬をふくらませながら、さっそく資料作りに必要なデータを呼び出し、 該当箇所をピックアップしはじめる。
あちこちから聞こえる「おはようございます」という声に返事をしながら集中していると、ちょうどできあがったタイミングでデスクにドンッとコンビニの袋が置かれた。
「なにこれ?」
顔をあげると案の定君塚の顔があった。
「安すぎない?」
「プレゼン成功したら報酬弾まさせてもらいます」
「吉峰のスペシャル海鮮丼ね」
「まかしとき」
彼はすぐにふたつ離れた席で自分のパソコンを立ち上げて、私の作った資料を確認している。
「完璧やな、サンキュー」
彼はそう言い残すと、外出の準備をして出ていった。
あいかわらず、落ち着かない人ね。
そう思いながら、彼が買ってきた袋の中身を見ると、私がいつも飲む紅茶とお気に入りのグミ。それと新作のお菓子が数点入っていた。
「わかってるじゃん」
私は紅茶のペットボトルを取り出し飲んだ。ホッとひと息ついたところで、同僚の根岸春香が今度はやってきた。
「琴葉、社長が呼んでるわよ」
「え、来てるの?」
テレワークをする社員も多く、仕事をするうえで出社が必須要件ではない。
私は出社したほうが仕事が捗るので、基本的には会社で仕事をしている。