離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
* * *
忘れたいと思っているのに、この五年事あるごとに私は彼との思い出を引っ張り出して生きてきた。
そうして幸せと悲しみの両方を胸に抱いて、日常を送っていたのだ。
それなのに、なぜ今ごろになって彼が目の前に現れてしまったのだろう。手の届かないところにいるから我慢ができた。それなのにすぐそこに彼がいる現実に、私の心はいつまで耐えられるのだろうか。
いや、耐えなければいけない。できないなら今の生活を捨てて別の場所で暮らすだけだ。
自分がこれからどうなっていくのか怖いとさえ思う。
けれど彼と再会できてよかったこともある。
それは彼が以前と変わらない様子で日常生活を送っていることを知れたことだ。彼が今ちゃんと歩けているのは、間違いなく北山の力だから、私のやったことは無駄にはならなかったのだ。
彼の颯爽と歩く姿を見たときに、思わず泣きそうになってしまってあわててうつむいてごまかした。そのときばかりは、心からあのときの自分を褒めた。
「はぁ、そろそろ起きなきゃ」
手元のスマートフォンで時間を確認した私は、大きく伸びをしてからベッドを下りた。
食事をすませ身支度を整え、仕上げにジュエリーボックスを開けて今日つけるピアスを選ぶ。
近くにある引き出しに手を伸ばし、開けようとしてやめる。
「さて、頑張ろう」
自分で自分をふるいたたせてから、家を出た。