離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 真面目に働く社員ばかりだし、上司や先輩とも楽しく会話をしながら仕事をする職場だ。

 しかし社長となると話は違ってくるのではないだろうか。しかも彼はまだこの会社の社長に就任して二カ月強といったところだ。おそらくみんな気を遣うに違いない。

「そう、そんなふうには俺は思わないけど」

 彼がそう言ったタイミングで、営業部の社員が近づいてきた。

「社長、今お時間よろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

 軽く返事をすると、すぐに体を社員のほうへ向けて相手の持ってきたノートパソコンの画面を一緒に覗き込んでいる。

「この間よりもすごくよくなってる。このままでも十分だとは思うけどここをもう少し掘り下げておいたほうがいい。あとは口頭で補足するほうが先方に伝わりやすい」

「なるほど、ありがとうございます」

 最初は難しい顔をしていた社員の顔が、明るく輝く。

「いや、本当にすごくよくできている。結果期待してるから」

 玲司が軽く背中を叩くと、シャキッと背中を伸ばした。気合は十分のようだ。

「はい、頑張ってきます」

 社員はそのままノートパソコンを持って、客先へ出向いて行った。

 そのあとも入れ替わり立ち代わり、次々と色々な人が彼のもとにやって来た。昔から偉ぶった様子がなかったが、北山の姓を名乗り跡を継ぐことになっても変わっていないようだ。

 ひとしきり仕事を終えたのか、玲司が大きく伸びをする。

「ここに来れられる日は限られているから、効率よく物事を進めるためにはみんなの中で仕事をするのが一番いい」

 先ほどまでの社員の様子を見ていると、彼の言うこともうなずける。

「それに君の隣で仕事をすると捗るんだ」

「急になにを言いだすんですか?」

 軽口だとしてもドキッとしてしまう。

「それはそうだろう。好きな子の前だと張り切るのは男の性(さが)だ」

 私にしか聞こえない小さな声だった。しかし周囲に聞かれていないかひやひやしてしまう。

「冗談だとしてもやめてください。誤解をうけます」

「俺は問題ないけど」

「私は問題が大ありです」

 お互いにパソコンの画面に視線を向けたまま、かちゃかちゃキーボードの音をさせながら言い合う。

 周囲からはふたりが話をしているとは思っていないだろう。実際はずっとぽんぽんと言い合いをしている。

「仕方ないだろう。こうでもしないと、君と話をする機会がなかなかない」
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