離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「ライバルって、相手は社長だよ」

 経営者と張り合っても仕方がないのでは?

「相手に不足はない。いろんな意味でライバルになりそうだよ」

 ごはんをめいっぱいほおばりながら、自信に満ちたセリフを吐く。まるで小学生みたいだ。

「どういう意味?」

 子供っぽいなと思う反面、これが君塚のいいところだ。裏表がなくわかりやすい。

「お前は知らなくていいんだよっと」

「あっ」

 油断していたら私の丼にのっていたトロが、君塚に盗まれた。

「もう! 最後に食べようと思っていたのに」

「早く食べないのが悪い」

 悪びれもなくそう言われて、私は怒る気力も失せた。

 君塚とのつき合いもずいぶん長くなったな。

 彼との出会いは、四年前。ライエッセの中途採用試験の最終面接のときからだ。それからずっと営業と事務。職種は違うといえ励まし合って一緒に頑張ってきた。戦友という表現がぴったりの相手だ。

 君塚とは男女の性別関係なく、これまでずっと仲良くしてきた。一緒にいて楽な相手のひとりだ。

 少々自信過剰なところもあるけれど、そこそこイケメンで女性にモテるし、男性にも人気がある。

 私がこの会社でやってこられたのも、君塚と春香ふたりの同期のおかげだ。

「君塚は社長のこと認めてるんだね」

「悔しいけどな、あんな一流の人間と一緒に働けることをうれしいとさえ思うわ」

 超高評価に思わず「そうでしょ?」と思ってしまう。四年前、以前の会社でも最年少アナリストとして会社を背負っていくような人だったんだから。彼は、どこにいってもどんな立場でも結果を残す人だ。

 そこで気がついてしまった。なぜ私がこんなにも玲司のことを自慢に思っているの? 他人なのに。

 慌てて自分で自分に突っ込んだ。

「琴葉、どないしてん?」

 ひとりで考えこんでいたところ、君塚が顔を覗き込んできた。

「え、なんでもない。でも最初はどうなるかと思っていたけど、なんだかんだみんなとうまくいっているみたいでよかった」

「琴葉はどうなん?」

「ん?」

 急に話を振られて反応が遅れた。

「琴葉はどう思ってるんだ。社長のこと」

「どうって……みんなと一緒だよ」

 それ以外どう答えたらいいのかわからない。元夫婦なのでやりづらいなんて、あの頃を思い出してときどき胸が痛いなんて、口が裂けても言えない。
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