離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「そっか、急に秘書みたいなことやらされてたから、大変そうやと思てたんや」

「たしかに業務量は増えたかけど。社長は割となんでも自分でなさるのでそこまで困ってないよ」

「それならええんや。まぁ、愚痴ぐらい聞いてやるから。なんなら今度飯でも――」

 話の途中だったけれど、ふと壁にかかっている時計を見ると午後の社内打ち合わせの時間が迫っていた。

「あ~もうこんな時間! 帰りにコンビニに寄りたかったのに、急がなきゃ」

 私はスペシャル海鮮丼をありがたく味わいつつ、急いで口に運んだ。

「ん? なにか言いかけたよね。ごめん」

「あ~まあええわ。ほら、はよ食えや」

 呆れた様子の君塚に見られながら、私は海鮮丼を食べきった。

 数日後、私はいつの間にか社長室に設置された私専用のデスクで仕事をしていた。必要ないと固辞しようとしたけれど、実際あれば仕事の効率が上がるので意地を張らずに受け入れた。

「琴葉、これ手配を頼む。あとこの案件の仕様書を確認したいから担当者呼んでもらえる?」

「はい、かしこまりました。あと、私の名前は鳴滝ですから、気をつけてください」

「別にいいだろ。誰もいないんだし」

「そういう問題じゃないんです。けじめはしっかりつけてください」

 私の抗議に玲司は不満げに返事をする。

「ほかの社員がよくて、俺がダメな理由は?」

「え。だってそれは――」

「君塚だって君を名前で呼んでるだろう」

 まさかここでそんな話が出てくるとは思わなかった。

「彼は同期ですから、社長とは立場が違います。いくらうちの会社がわりとフラットな関係の会社でも上下関係は大切にしてください」

 言わなくてもわかりそうなものなのに。

「社長なんて損だな」

 パソコンの画面を眺めながら、不満げにこぼしている。損得は関係ないと思うのだけれど反論すると墓穴を掘りそうなので、だまっておく。

「じゃあ鳴滝さん、今日食事にでも行かないか?」

「遠慮しておきます」

 即答すると、玲司はますます不満げな顔をする。

「なぜ? この間君塚は行っていただろう」

 また君塚の話を持ち出してきた。今日はどうしたというのだろうか。

「あれは急ぎの仕事を手伝ったお礼に――」

「それなら、俺だって君にお礼をしないといけないだろう。さんざん仕事を手伝わせているんだから」

「さっきも言いましたけど、立場というものがありますよね」
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