離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 どうにかわかってほしくて、もう一度先ほどと同じような説明をする。

 しかしここで彼は切り札を出してきた。

「中野社長とは〝さし飲み〟していたみたいじゃないか」

「あっ……」

 これまでは君塚と比較していたのでなんとかなっていたが、中野社長の話を持ち出されると言い訳できない。

 そんなことまで引き継ぎしていたなんて。

 玲司が勝ち誇ったような顔をしているのは、気のせいだろうか。

「君に断られると、キャンセルされる店に迷惑が掛かるが、仕方ないな」

「もう予約までしてるんですか?」

 その用意周到さに呆れながら、きっと私がなにを言っても食事に連れていくつもりだったのだと知る。

 これまで数回断って成功していたのは、単に彼が本気でなかったからだろう。すっかり油断していた。彼は昔から自分が決めたことはやり遂げる人だった。

 店に迷惑がかかると言われると、ますます断りづらい。

 私がどうやれば従うのか完全に理解している彼が、追い打ちをかけてくる。

「単純に部下をねぎらいたいだけなのに、こんなにかたくなに断られるとは心外だな」

 その言い方だと私が変なふうに意識しているみたいだ。

 矢継ぎ早に攻撃された私は白旗を上げるしかなかった。

「お食事、ご一緒させてください」

「そうか、うれしいよ」

 玲司は満足げに勝者の笑みを浮かべていた。



 そして三日後の金曜日。

 私は玲司と一緒に、会社から二駅ほど離れた場所にあるイタリアンレストランにいた。看板の出ていない小さな店だった。ほかのお客さんの様子を感じることなく個室に案内された。

 室内の調度品や、接客態度から高級店だとうかがい知れた。部下の日ごろの頑張りをねぎらうには少し大げさだと思うけれど、せっかくなので厚意に甘える。

「料理は適当に頼んでおいた。最初はシャンパン? それとも白にする?」

 好みを把握している彼に任せておけば間違いない。その点においてはほかの人と食事に行くよりも楽だ。

 結局最初はシャンパンを飲もうと注文をすませると、個室にふたりきりになる。

 仕事中は社長室にふたりでいることも多いのだけれど、職場じゃない場所でこんなふうにふたりきりで向かい合って座っていると、なんだかソワソワしてしまう。

 しかし相手に知られたくないので、できるだけいつもと変わらないようにふるまった。
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