離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
飲み物が運ばれてきて、ふたりでグラスを持った。
「いつも仕事を手伝ってくれてありがとう」
「いえ、仕事なので」
お礼を言われているのに、かわいくない言い方をしてしまった。本当はもっと言い方があるんだろうけれど、彼に対してはかたくななくらいがちょうどいいと思っている。
そうしなければ、しっかりと距離を保てない気がするのだ。
すべて自分の中の問題だ。彼には関係ないので、少し申し訳ない気もする。
「ここまで問題なくやってこられたのは、間違いなく琴葉のおかげだ」
私のぶっきらぼうな態度にも、彼は気にした様子もない。再会していつも思う。自分だけが彼をすごく意識してることを。
彼が自分をどう思っているのか、知りたいけれど知りたくない。知るのが怖くて、必死になって彼から距離を取っている。
けれどこうやってふたりで食事をすることを、受け入れてしまっている。というよりも、今この時間を楽しんでいる自分がいる。
「琴葉って」
「会社では我慢しているんだから、プライベートな時間くらいいいだろう。君が言っていた公私の区別だ」
そう言われると、その通りなのでそれ以上なにも言えない。
「琴葉は俺のこと、玲司って呼ぶ気はないのか?」
私はどういう意味なのかはかりかねて、視線で彼に尋ねる。
「もう一度、俺のことを〝玲司〟って呼んでほしい」
真剣な目で射抜かれて、私の胸はどうしようもないくらい高鳴った。
ふと、はじめて彼を名前で呼んだ日のことを思い出した。彼は仲良くなってすぐに私のことを〝琴葉〟と呼んだが、私はなかなか彼の名前を呼べずにいた。
あれはふたりで過ごすはじめての彼の誕生日。プレゼントのマフラーを渡したあと『名前を呼んで』と言われて緊張しながら彼を名前で呼んだ。
そのときの甘くてドキドキした感情を思い出した。なにげない日常でもとても幸せだったのだと今もそう思う。
けれどその感情を、私はもう一度味わいたいと思ってはいけない。北山家との約束もある上に、理由があったとしても彼を傷つけた私にはその資格はないのだ。
甘い思い出が、今の自分を苦しめる。
「はい」とも「いいえ」とも言わない私に〝社長〟はそれ以上を求めなかった。
「そんな困った顔するなよ。とりあえず俺はまた琴葉のかわいい声で名前を呼んでもらいたいと思っている。それは覚えておいて」
「いつも仕事を手伝ってくれてありがとう」
「いえ、仕事なので」
お礼を言われているのに、かわいくない言い方をしてしまった。本当はもっと言い方があるんだろうけれど、彼に対してはかたくななくらいがちょうどいいと思っている。
そうしなければ、しっかりと距離を保てない気がするのだ。
すべて自分の中の問題だ。彼には関係ないので、少し申し訳ない気もする。
「ここまで問題なくやってこられたのは、間違いなく琴葉のおかげだ」
私のぶっきらぼうな態度にも、彼は気にした様子もない。再会していつも思う。自分だけが彼をすごく意識してることを。
彼が自分をどう思っているのか、知りたいけれど知りたくない。知るのが怖くて、必死になって彼から距離を取っている。
けれどこうやってふたりで食事をすることを、受け入れてしまっている。というよりも、今この時間を楽しんでいる自分がいる。
「琴葉って」
「会社では我慢しているんだから、プライベートな時間くらいいいだろう。君が言っていた公私の区別だ」
そう言われると、その通りなのでそれ以上なにも言えない。
「琴葉は俺のこと、玲司って呼ぶ気はないのか?」
私はどういう意味なのかはかりかねて、視線で彼に尋ねる。
「もう一度、俺のことを〝玲司〟って呼んでほしい」
真剣な目で射抜かれて、私の胸はどうしようもないくらい高鳴った。
ふと、はじめて彼を名前で呼んだ日のことを思い出した。彼は仲良くなってすぐに私のことを〝琴葉〟と呼んだが、私はなかなか彼の名前を呼べずにいた。
あれはふたりで過ごすはじめての彼の誕生日。プレゼントのマフラーを渡したあと『名前を呼んで』と言われて緊張しながら彼を名前で呼んだ。
そのときの甘くてドキドキした感情を思い出した。なにげない日常でもとても幸せだったのだと今もそう思う。
けれどその感情を、私はもう一度味わいたいと思ってはいけない。北山家との約束もある上に、理由があったとしても彼を傷つけた私にはその資格はないのだ。
甘い思い出が、今の自分を苦しめる。
「はい」とも「いいえ」とも言わない私に〝社長〟はそれ以上を求めなかった。
「そんな困った顔するなよ。とりあえず俺はまた琴葉のかわいい声で名前を呼んでもらいたいと思っている。それは覚えておいて」