離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 四年間一度も会わなかった。当時は短かった髪は長くなっている。

長めの前髪はサイドに流されていて、三十二歳になった彼は清潔感と大人の色気を兼ね備えていた。

 けれど意志の強そうな眉に、人を惹きつける形のよい目。高い鼻も色気のある唇も当時と変わっていない。

 私が好きだった彼そのものだ。

 思わず凝視してしまった。そのことを中野社長に突っ込まれて我に返る。

「鳴滝さん、イケメンだからってそんなにジロジロみたら失礼だよ」

「え、いや。はい」

 私は慌てて視線を中野社長に移す。

「いやでもさっき、名前呼んでなかった? もしかして知り合い」

 私は相手が口を開く前に先手を打つ。

「いえ〝はじめまして〟鳴滝琴葉です」

 あえて強調した言葉に、相手も気がついたようだ。私の意図を理解して不遜な笑みを浮かべた。

 どうでるだろうかと心配していたけれど、向こうはこの場では私に話を合わせると決めたようだ。

北山(きたやま)玲司(れいじ)です。どうぞよろしく」

 眩しい笑みをもって私に微笑みかける彼からは、余裕すら感じる。

 私がこんなに混乱しているのに、この再会をなんでもないことの様に思っているようで悔しい。

 いや、向こうが仕組んだことなら、彼が余裕なのはあたりまえだ。

 私は自分の焦る気持ちを悟られないように努めて冷静にふるまった。

「あの、もしかして新しいクライアントの方ですか?」

 私はさっさと用件をすませようと自分から話を進めるように促した。

「いや、そうじゃない。鳴滝さん、驚くかもしれないけれど、彼にライメッセを譲ることにしたんだ」

「譲る? どういうことですか?」

 ただでさえ玲司の登場で冷静ではないのに、驚きの発言に頭がついていかない。

「とりあえず、座って。首が痛い」

 優しく笑いながら自分の隣のソファに座るように促され、私は中野社長の隣に座った。

「実は一年前に大きな病気が見つかってね」

「えっ、そんな話聞いてないです」

「今はじめて言うからね」

 目の前の恩人の病に気持ちが動揺している。ぐっと奥歯を噛みしめて胸のざわつきに耐えた。

「そんな顔しないで、話しづらくなるじゃないか」

 中野社長は私の背中をポンポンと叩いた。

 このライエッセは六年前の三十六歳のときに設立した会社だ。

 私が採用されたときは三年目に入ったばかりで、従業員もまだ二十人もいなかった。
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