離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 なにか打ち込めるものを探していた私は、失敗しながらもこの会社で働けることで自分を保っていた。

 そんな仕事ばかりの私を、中野社長は兄のように親身になって心配していた。

 仕事では至らない私の失敗を笑って一緒に解決してくれた。

 私生活では仕事ばかりしている私の誕生日を忘れずに祝ってくれた。

 それなのに私は……彼が体調を崩していたことすら気がつかなかった。

 そのことがなによりもショックで、申し訳ない。

「今のところすぐにどうこうなるってわけじゃない。ただ手術と長期間の静養が必要なんだ」

「その間、社員のみんなで頑張りますから」

 しかし中野社長は首を振る。

「君たちを信頼していないわけじゃない。社員の誰かに任せることも考えたけれど、適任者が思いあたらなかったんだ。まだ君たちをそこまで育てられていなかった俺の責任だ」

 中野社長が、道半ばでこの会社を手放すことを心から残念に思っているのが伝わってくる。

「だからこの半年、ずっと俺の宝物を託せる相手を探していた」

 私たちでは力不足だと言われてしまった。たしかに若手社員が多く、なにかあってすべての責任を負う覚悟がある社員はいるだろうか。

 考えてみれば私たちはいつも社長の庇護のもとに仕事をしていたのだから。

 私だってこの会社のことを大切に思っている。

 しかしベテラン組と言われる私でも、この会社を背負って立てと言われると途端に自信がなくなる。

 よくも悪くもこの会社は、中野社長を中心とした組織だ。だから今この会社で彼の代理はできたとしても代わりを務められる人間はいない。

 会社のことをわかっているからこそ、この選択は理解できる。理解はできるけれど、どうしてその相手がよりにもよって玲司なのだろうか。

 私は言いたいことがたくさんあるけれど、説明を待った。

「北山君は、北山グループの次期代表になる。現在は傘下の会社をいくつか経営しているビジネスマンとしては極めて優秀な人材だ」

 それはそうだろう。中野社長が宝物と言う会社を託す相手を適当に選ぶはずなどない。

「じゃあうちも北山グループの傘下に入るってことですか?」

 私の質問に答えたのは中野社長ではなく、玲司だった。
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