離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 琴葉との結婚を決めたときなにがあっても、できる限り彼女を幸せにしようと決めた。だからこの離婚も彼女の願いを叶え、今後の輝かしい未来を歩かせるために必要なのだと思えた。
 
ただその未来に自分がいないだけ。それでも彼女の未来を守れるなら仕方がないと思っていた。

 そのころの俺は、離婚が彼女の願いなのだと信じて疑わなかった。


 琴葉が自分のもとからいなくなって二年半が経っていた。

 複数回の手術と血のにじむようなリハビリを経て、俺の足は日常生活ならば、なんら問題なく送れるまで回復していた。

 北山家は跡継ぎの俺に最高の治療をもたらしてくれた。そうでなければ、いまだに歩けていないか、生活に支障をきたしていただろう。

 まだ海のものとも山のものとも知れない、ただ血がつながっているだけの男を、多額の私財と人脈を通じて助けてくれた。そのことについては感謝しかない。

 だから回復した今、必死になって学び北山グループの跡取りだと認めてもらえるように日々努力している。

 ただ体の傷は癒えても、彼女を失った心の傷は深く残ったままだった。

 なんどか縁談話は持ち上がったが、すべて断っていた。結婚だけは自由にしたいとずっと拒否してきた。

 そもそも心の中にずっと琴葉がいるのに、ほかの誰かと真剣に向き合うことなんてできない。

 琴葉自身のためだと言って離婚をしたあとも、女々しい俺はふたりで住んだマンションを解約できないでいた。

 北山家のほうで、新しい住まいは用意されていた。だが俺はゆっくりしたいときや、考え事をしたいとき決まってこのマンションに足を運んでいた。

 その日も北山での仕事を終えて、疲労困憊だった俺は琴葉と過ごしたマンションに足を向ける。

 比較的早い時間だったせいか、管理人室にまだ人がいた。

「小比賀さん。荷物預かってるから持って行って」

 昔の名前のほうがなじみがある管理人は、今でも俺を旧姓の小比賀と呼ぶ。今では誰も俺をそう呼ばないので、懐かしいこともありそのまま受け入れていた。

「革工房?」

 差出人に思い当たる節がなかったが、一緒に残されたメモに『奥様からのご依頼の品です』と書かれていて、俺は部屋まで我慢できずに乗り込んだエレベーターで包みを開く。

「キーケース? それも名前が刻印してある」
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