離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「そういうことになるな。ただ今の実績ではこの会社の価値をグループ内に知らしめるには少し弱い。そのために俺がここで実績を上げて北山全社のシステムを将来的にはここに任せるつもりだ」

「そんな大きな仕事を?」

 北山グループ全社となると、これまでのうちの会社が受け持った仕事とはけた違いだ。

 中野社長の、全国にわが社の価値を認めてもらうという夢も叶う。

「現状ではその可能性が十分あると思っている。ただできないとわかればそのときは」

「そのときは?」

 私の質問に、玲司は答えなかった。

「これ以上の話を今したところで、なんにもならない」

 それもそうだ。中野社長がこの会社を玲司に譲ると決めたなら、私はその決定に対して口を出す立場にない。

「それでどうして私がこの場に呼ばれたんでしょうか?」

 会社の置かれている状況は理解できた。しかし私だけ前もってこの場に呼ばれたのはなにか意味があるのだろうか。

 玲司は私と知り合いだということは、中野社長には言っていないみたいだし。

「鳴滝さんには、北山くんの補佐についてもらいたい、君ほどこの会社について詳しい子はいないからね」

「えっ、私が?」

 思わず声をあげてしまう。その声に拒否の声色がついつい混ざってしまった。

「正直だな」

 玲司は怒るわけでもなく、素直な私の反応を見て笑っていた。

「たしかに今の仕事を抱えながらだから、負担が増えるけれど、君ほどの適任はいないと思うんだ。どうだ引き受けてくれないか」

 中野社長の心からのお願いだということは、付き合いが長いのでわかる。私もいつもなら与えられた仕事を拒否するようなことはしない。

 相手が玲司でなければ、すぐに了承している。

 だけど――どうしても、この仕事だけは……。

「ごめんなさい、いくら社長の頼みでもそれだけはできません」

「鳴滝さん、どうしたの? いつもの君らしくないよ」

 中野社長がそう言うのも理解できる。ただその理由をどうしても言いたくないのだ。

 この状況を見ていた玲司が口を開いた。

「彼女とふたり、少し話をさせてください」

 玲司の言葉に中野社長は少し心配そうな顔をしつつも、彼の提案を受け入れる。

「じゃあ、私はフロアに出ているから」

 そう言い残して中野社長が出ていったので、社長室にはふたりきりになる。私はその途端、玲司の視線から逃れるように彼に背中を向ける。
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