離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 奥様と言われてすぐに中を確認したが、琴葉に通じるようなものはなにもなかった。

 しかしこれを本当に琴葉が手配したのであれば、いつの話なのだろうか。

 俺は次の日気になっていてもたってもういられず、キーケースに同封されていたショップカードにある住所に車を走らせた。

 そこは事故の当初、最初に運ばれた病院の近くだった。

 古い店構えのショーウィンドウには【店じまいセール】という張り紙があった。

 店の中に入って声をかけると、奥の工房から作業エプロンを付けた店主らしい男性が出てきた。

「いらっしゃいませ。気になるものがありましたら、お安くしておきますよ」

「いや、申し訳ないんですが、少し聞きたいことがあって来ました」

 男は怪訝そうな顔をしたが、俺が昨日のキーケースを取り出すと、パッと顔を輝やかせた。

「よかった。無事手元に届いたんですね」

「はい。ちゃんと受け取りました。ありがとうございます」

「あぁ、よかった。実は二年半前に奥様からそちらの商品の注文をいただいていたんです。ただ引き取り期限を過ぎても取りに来なかったのでこちらでずっと保管していたんですよ」

 どうやら事故の前後に注文されたもらしい。

「相手はこの人で間違いないですか?」

 スマートフォンの画像フォルダから、琴葉の顔を呼び出して見せる。

「う~ん、顔までははっきりと覚えてないんですよね。なにせ二年半前なので」

「そうですよね」

 一度ふらっと来ただけの客を、よっぽどのことがない限り覚えていないだろう。

「でも、本当によかった。お届けできて。あんな話を聞いていたから処分するにできなくて」

「あんな話とは、どんな話を妻がしていたんですか?」

 俺が入院中に琴葉に起こった出来事を知っているようだ。どんな些細な話でも聞きたい。

「ご主人が自分のせいで事故に遭った。もしかしたら歩けなくなるかもしれない。だけどなにがあっても自分が支えるつもりだって言っていましたよ。袋の中にたくさんのリハビリ関連の書籍を持っているのも見せてくれました」

「琴葉が、そんなことを? その日がいつだったか日付はわかりますか?」

「あぁ、もちろん。受注伝票があるからね」

 店主はいったん中に引っ込むとA5サイズのバインダーをめくりながら持ってきた。

「あった、これこれ。えーと二年半前のこの日だね」

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