離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「そんなふうには見えなかったよ。私から見た玲司はいつも余裕で歳が三つしかかわらないのにすごく大人に思えてた」

「それは琴葉の前で、頑張って無理していたからだ。俺だって好きな女の子落とすのに必死だった」

 当時の大切な思い出をふたりで掘り起こす。これは相手が彼でなければできないことだ。

「俺たちって、いい思い出たくさんもってるんだよな」

 彼の言う通りだ。私たちには数えきれないほど素敵な思い出がある。

 でも今の私は、それだけじゃなくて彼とのこれからを考えてしまっている。

「琴葉、これ覚えているか?」

 彼がポケットから出したものを見て驚いた。

「どうして……これが?」

「琴葉が俺にプレゼントしてくれたんだろう?」

「たしかにそうだけど」

 注文をしてすぐに離婚が決まった。彼に渡せないものを受け取りに行く勇気がなかった。代金はすでに払っていたので、申し訳ないと思いつつ、そのままにしてあったものだ。

 もうとっくに、処分されていると思っていたのに。

「ちゃんと俺のところに届いた。少し遅れて一年半前に」

「当時は自分のことで精いっぱいで……気に掛ける余裕すらなかった。きっとお店の人は迷惑していたよね」

「迷惑というよりも、俺に渡せてホッとしたって顔をしていたよ。店じまいをするから、どうしても俺にこれを渡したかったみたい」

 店主が受注伝票をたよりに、玲司のもとに届けてくれたようだ。

「きっと向こうも琴葉のことが心配だったに違いないよ。そのときに聞いたんだ。琴葉がどんな思いでこれを、俺にプレゼントしようとしてくれていたのかを」

 確かそうだった。あのときは玲司との面会もできず、それでもなんとか前向きでいようと努力しているときだった。

 誰にも話を聞いてもらえず店主にあれこれと泣きながら話をしたのを覚えている。面倒な客だっただろうに、優しく話を聞いてもらえた。

 玲司は店主から、そのときの話をどこまで聞いたのだろうか。

 彼が私の目をまっすぐ見つめる。

「琴葉、この間の告白は成り行きや勢いじゃない。君はずっと俺の心の中心にいた。どんなにつらいリハビリのときも元気になって琴葉を迎えに行きたいって考えていたよ」

 本当ならずっとそばについていたかった。どんな彼でもどんなときでも支えになりたかった。
< 78 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop