離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 でも私がそばにいるよりも、北山家で手配した医療のほうがずっとそのときの彼には必要だったのだ。

「わ、私の手紙読んだでしょ? あんなひどいこと書いたのに、まだそんなこと言っているの?」

「たしかに最初は別れることが、琴葉のためだと思った。一生歩けない俺と一緒にいたって、琴葉が苦労するだけだから。だから離婚した」

「そうよ、それで正解なの」

 私の言葉に彼は首を振った。

「でも歩けるようになれば問題はないだろ。介護が嫌で別れたいなら、俺の足が今まで通りに動けばいい、それだけのことだって思えたんだ。途中からはそれが俺の支えになっていた」

 簡単に言っているが、並大抵の苦労ではなかったはずだ。

「いつか必ず問題なく歩けている姿を琴葉に見せようと思っていた。そのときにほかの誰かのものになっていたとしても、琴葉の罪悪感を拭えると思ったから」

「なんて人なの……」

 押さえていた感情が爆発して、涙が我慢できなくなってしまう。彼はずっと私のことを思い続けてくれていたのだ。

「仕方ないだろ。琴葉がなにを言っても俺は君を忘れられなかったんだから」

 なんの取り柄もない私。唯一できることが、彼を自由にして北山家からの援助を受けさせてあげることだけだった。

 私は、私たちの結婚をあきらめてしまったのに、彼は強固な思いでいつかもと通りにしようと努力し続けていた。

 どれほど強い人なのだろう。

 こんなにも思われて、私は彼になにを返すことができるだろうか。

「琴葉はなにも悪くない。俺たちは四年前の選択をやり直すべきだ」

 彼のまっすぐな瞳に射抜かれる。すぐにうなずきたい気持ちをぐっと抑える。

 そうできたらな、どんなにいいか――そう言葉にしてしまいたい。

 でもできない。たくさんの人と約束をしたから。

「そんなの……無理だよ」

「どうして? 琴葉が俺のもとを去ったのは、北山の圧力のせいなんだろう?」

「知ってたの?」

 驚きで目を見開き玲司を見る。彼はゆっくりと力強くうなずいた。

 しかしだからと言って、受け入れられない。私と彼の立場が変わったわけじゃないんだから。

「私じゃ、あなたにふさわしくないもの」

 彼とやり直そうと思っても、結局ま同じことの繰り返しになってしまう。また彼と引き裂かれるようなことがあれば、私はきっと壊れてしまう。

 それならば……今のままでいい。
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