離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「久しぶりだな」

 穏やかな彼の声。私の子供っぽい行動も気にしていないようだ。

感情に任せた態度を取る自分が恥ずかしくなり、気持ちを切り替えて彼のほうに向く。

「はじめまして、ですよ。北山さん」

「はじめましてねぇ。まぁいいさ。おいおいそんなことを言ってられなくなるだろうし」

 呆れ交じりの笑みを浮かべている。

 自分でも茶番だと思う。

 けれどどういう距離間で彼と接すればいいのかわからないのだ。とにかくなんとかしてこの場から逃げ出したい。

 ただそれだけしか、焦った頭では考えられなかった。

「どういうこと?」

 彼の意図を掴みたくて尋ねた。

「会ったばかりの上司に、その口の利き方は正解? 確か俺たちは初対面のはずだけど」

「あっ……」

「琴葉がはじめたんだろ、そんなんでやっていけるのか?」

 完全にバカにした様子で、クスクスと笑っている。

「と、とにかく。私はあなたの補佐はできません」

「そうか」

「えっ?」

 意外にもあっさりと引かれて驚く。説得されると思って身構えていたのに、とんだ肩透かしだ。

「いいんですか?」

「あぁ、かまわないさ。無理に手伝わせるつもりはない」

 たしかに彼は誰かに無理強いをさせるようなタイプの人間ではない。

 相手が誰であろうがきちんと意見を聞いてできる限り尊重する。少なくとも昔はそうだった。

「ただ琴葉はそれでいいのか?」

「いいのかって、もちろんよ」

 自分が言いだしたことだ。希望通りになったのだから問題ない。

「俺を近くで見張っていなくてもいいんだな。好きにするぞ、この会社」

 人の悪い笑みを浮かべて、こちらを見ている。

「好きにするって、そんなことさせない」

 思わず私は、声をあげた。それを彼は笑って見ている。

「俺は慈善事業をしに来たわけじゃない、不必要となれば切り捨てる」

 仕事ができるというのは、こういうところも含めてなのだろう。

 あの日本でも一、二を争うグループの上に立つ人間には、そういう無慈悲さも必要なのかもしれない。

 理解はできるけれど、この会社ライエッセに関しては看過できない。

「この会社をそんな扱いにしたら、後悔するわ」

 今はまだまだ小さいが、社会に貢献できる会社だと中野社長をはじめ全員が自負している。

「すごい自信だな。そう言うなら俺が間違った判断をしないように、一番近くで見張っておく必要があるんじゃないのか?」
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