離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「社長もですか? でもやめといたほうがいいですよ。こいつ昔の男が今でも忘れられんみたいなんで。四年も前からずっと引きずってるらしい。これから先も、その男以外は好きにならんって今宣言してました」

 あぁ、なんで本人にそれをばらしてしまうの?

 君塚は私と玲司が四年前に別れた元夫婦だってことは知らない。だからなにも考えずに口にしたのだろう。

 それを聞いた玲司は、うしろにいる私をゆっくりと振り向いた

「それは本当なのか?」

 君塚にそう説明した手前、否定することもできない。かといって、玲司本人の前で好きだと告白するようなこともできない。
 
 どうすればいいの、神様!
 
 黙って黙ってうつむくしかない私は卑怯なのかもしれない。
 
 しかしこのままでこの状況が収まるわけない。

 玲司の質問には、皮肉なことに君塚が答えた。

「嘘やない。俺が今この耳で聞いたからな」

 そう彼はなにも悪くない。ただタイミングが悪かった。

「わかった。鳴滝さんは四年前に別れた男を今でも、そしてこれから先もずっと思い続けるってことなんだな」

「そうや。だから俺も社長も琴葉を手に入れるチャンスはないってことや。残念やけどな」

 君塚の自虐めいた言葉がフロアに響く。

「それはそうとして、先ほどの行為は上司として見逃すわけにはいかない」

 君塚は玲司の言葉に、ギュッと唇を噛んだ。

「それは……ごめん、琴葉。俺最低なことしたな」

 肩を落とす君塚の顔には後悔の色が浮かんでいた。おそらく一時的にかっとなってしまい取った行動だったのだろう。

「自分の思い通りにならへんからって、ほんまに申し訳なかった」

 深く頭を下げる彼に、私は大丈夫だと伝えた。

 あやまるなら壁ドンのことよりも、玲司にあれこれ暴露したことを反省してほしい。

 しかしそう言ってなじるわけにもいかず、私は引きつった笑みで君塚を許す。

「今日のことは、私も悪かったから忘れる。だからまた同期として仲良くしてくれる?」

「琴葉……」

 君塚はまだなにか言いたそうにしていたが言葉を飲み込んだ。そしてしっかりと顔を上げ私のほうを見た。

「これからも同期として、仲良くやっていこう」

「うん」

 私がうなずくと、彼はホッとしたような顔をしていた。次に隣に立つ玲司のほうへ体を向けて勢いよく頭を下げた。
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