離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「でもあの部屋に行ってどうするの? 今はほかの人が住んでるでしょう?」

 こんな夜遅くに迷惑ではなかろうか。

 四階に到着して前を歩く彼についていく。

「誰も住んでない。俺と琴葉の部屋だから」

 彼は振り向きもせずにそういうと、私のプレゼントしたキーケースを取り出して部屋の鍵を開けた。

「え……」

 彼が扉を開いて「どうぞ」と言う。なんで四年前に解約したはずの部屋が?

 言われるままに中に踏み込んで、私は驚きのあまり足を止めてしまった。
 
 時間がここだけ、四年前で止まっているようだ。

 そう思えたのは、あの頃と部屋の状況がなにも変わっていないからだ。玄関には私が置いていった傘や、一緒にドライブに行った先で買ったポストカードがそのまま飾られていた。

 彼がなにも言わずにどんどん歩いていくので、それについていく。リビングも玄関と同じくあの頃のままだった。不思議な感覚を抱きつつも、懐かしくてあちこち見てしまう。

「ほとんど、まだあの頃のまま残してある」

 たしかにそうだ。その上どこにも埃や散らかっているところがなく整えられていた。

 それをしていたのは、もちろん玲司だろう。

「案外綺麗にしているだろう。毎週なんだかんだ理由つけてここに来ているからな」

「なんでそんなこと」

 彼が今住んでいるのは、別のマンションのはずだ。先日彼を送り届けたので間違いない。

 彼は歩きながらチェストのある場所に移動した。そこに飾ってある写真立てももちろん当時のままだ。笑顔のふたりの結婚式の写真。

「俺にとって琴葉との大切な場所だから、失うなんて考えられなかった。ここに来れば琴葉を感じられる」

 そんなふうに思いながら、四年間もこの部屋を維持していたなんて。彼の思いが一度も途切れなかったことの証拠の様で、感動で胸が痛い。

 私がいないこの部屋で過ごすのは、どういう思いだっただろうか。決して帰ってこないのに、どんな思いで彼はここにいたのだろうか。

 彼がリビングの入り口で立ったままの私のもとに戻って来た。

「琴葉、今の俺はあの頃の俺じゃない。なにがあっても君を守ることができる。だから迷わずに俺の胸に飛び込んできてくれないか」

「玲司……私」
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