離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 数人に出迎えられた玲司は慣れた様子だ。こういう体験がはじめての私は、仰々しいお出迎えにますます緊張してしまい、頭を下げるのが精いっぱいだった。

「ただいま、父は?」

「応接室にてお待ちいただくようにと仰せつかっています」

 壮年の男性が先だって歩く。私たちはそれについていった。

「大丈夫? ずいぶん静かだけど」

「ダメかも。すごく緊張してる」

 弱音を吐く私を励ますため、彼が私の背中にそっと手を添える。

「大丈夫、俺がついてるから」

 そうだった。私は自分の気持ちに正直になると決めた。そして困難にも玲司と一緒に立ち向かうと決心したのだ。

 こんなところで弱音を吐いている場合じゃない。

 姿勢を正した私は、もう一度気持ちをあらたに彼の父親が待つという応接室に向かった。

 ――コンコン

 ノックをすると中からすぐに「はい」と返事があった。

 案内をしてくれていた男性がノックをしてから扉を開いた。

 中にはまだ誰もおらず、ソファに座って待つように言われ従う。

 彼と並んで座って、ぐるっと部屋の中を眺めた。家具や調度品はどれも品がよく落ち着いた屋敷の雰囲気にぴったりだ。天井も高く中央には輝くシャンデリアがあり、ここが個人の邸宅だと聞いてもどうしても納得できそうになかった。

「琴葉、ただの挨拶だ。そんなに緊張しなくていい。それにここでもし向こうがなにか言ってきても俺と琴葉が離れるなんてことはないんだから、心配する必要なんてない」

 そうは言われても、過去のことがあるのでそれをすぐに受け入れられない。

「わかってる。玲司が一緒だもんね」

 自分に言い聞かせるように口にすると、玲司が私の手の上に自らの手を重ねて落ち着かせてくれた。

 深呼吸を二回したあと、部屋にノックの音が響いた。その途端やわらいだ緊張がまたぶり返してくる。

 そんな私の様子を見た玲司少し笑ったあと「はい」と返事をした。

 ゆっくりと扉が開く。先ほど私たちを案内してくれた男性の姿があった。

「旦那さまをお連れしました」

 私はその場に立ち、扉のほうを凝視する。車いすにのったやせた六十代後半くらいの男性が入ってきた。

 そしてその車いすを押しているのは、尾崎さんだった。過去の記憶が甦ってきて緊張で体が強張る。それくらい彼に対する苦手意識が大きい。

「待たせたね。君たち座って」

「はい」

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