離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 悔しいけれど彼の言う通りなのかもしれない。


 彼の近くに入れば動きが把握できる。

もしライエッセの未来が経営判断でどうなったとしても、取り返しがつかなくなって知るよりも、彼のそばにいれば前もって知ることができ、あわよくば回避できるかもしれない。

 この会社は、私に生きる意味を与えてくれた大切な会社だ。

 だからできることは全力でしたい。畑違いの仕事をしていた私を拾ってくれた、中野社長の恩に報いるためにも。

「わかりました。補佐を務めさせていただきます」

 覚悟を決めた私は、彼の顔をしっかりと見て自分の決意を伝えた。

 玲司は満足そうにうなずく。

「賢明な判断だ。君なら最終的にはそうすると思ったよ」

 私のことをわかっているような口ぶりが悔しい。昔から玲司に喧嘩で勝った記憶がない。この先が思いやられて肩を落とす。

「そんなに元夫と仕事するのは嫌か」

「あ、当たり前じゃないですか! それに、私と北山さんは初対面のはずですけど」

「わかった、わかった。琴葉はその設定を貫くつもりなんだな」

「琴葉ではなく、鳴滝です。部下へのなれなれしい呼び方は、場合によってはセクハラとなりますので今後注意してください」

 補佐を引き受けると決めた以上、線引きは明確にしないといけない。

 いつ誰に私たちが夫婦だったことがばれるかわからないからだ。

「了解した、ほかには?」

 私は彼に最初に確認しておきたいことを尋ねる。

「ここの事業内情はどこまで把握しているんですか?」

「すべてだ。半年以上前から中野さんの仕事を共有している」

 あぁ、そんなに前から中野社長は事業譲渡を視野に入れて動いていたんだ。

「そんなに前から……私なにも知らなかった」

 私たちの前ではいつもと変わらない様子だった。大切な人なのに、なぜ気がつかなかったんだろう。

「そんな顔をするな。知らなかったんじゃなくて、知らせたくなかったんだと思うぞ。心配かけたくなかった、それだけじゃないのか?」

「そんなの、寂しすぎる」

 小さな会社だったころから、ずっと世話をしてくれていた人だ。それなのに水臭い。

「きっと会社の先行きが決まるまで言いたくなかったんだろう。彼との仕事の話をしていたら、なによりも従業員を大切にしているといことが伝わってきた」

 そうなのだ、そういう人なのだ。それが中野社長なりの優しさだとわかっても、寂しいものは寂しい。

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